糸井 |
じゃあ何? 欲しいもの何? って言った時に、
欲しいものってクリエイティブですよ。
何でもないコーヒーカップはいらないけど、
これは「ジノリ」だよっていうと、
捨てるんならもらっとこうかなって思いますよね。
で、ムーンライダーズって、その意味で、
「うん、ライダーズね」っていう人がいるから、
何だかんだ言って食えてるわけですよね。
それはもう、ありがたいことだなあって。 |
鈴木 |
そう、そこでだめになることっていっぱいあるよね。
そこで解散になったりするから。名前が強すぎたりして。
そこでだめじゃなかったっていうのは何なんだろうなあ、
って考えたりしますよ。 |
糸井 |
そう、自分で考えたりするよね、
俺のブランド力って何だろうって。わからない。
人に訊くしかない。 |
鈴木 |
そう、わかんないですよ。自分の値段が。
値段で考えないけど。 |
糸井 |
値段じゃはかれないですけど、
このケースでこの人にいくら貸しますかとか、
このケースでこの人の約束って守りますか、とか、
単純にやってくと正直に答えてくれるんだよね。 |
鈴木 |
その質問状はおもしろいね。
銀行の営業の人とかの逆かなあ。 |
糸井 |
しばらくね、やったほうがいい。
でもメールではやらないほうがいい。冷ややかになるから。
質問されても困るから、みんなお世辞言うでしょう。
「鈴木さんが夜中の2時に電話で
今すぐ来てと呼びました、行きますか」
って訊かれたら「行く」って書くしかないじゃない(笑)。
質問を変化させるっていうのがまた
クリエイティブなんですよ。
「ほぼ日マーケティング局」もそこがちょっと
工夫なんですよ。正しい答えに行き着くためには
こうやんなきゃいけないっていうことはわかるから。 |
鈴木 |
具体的にいったら「食えてる」ってこと自体が
おかしなことかもしれない。それが何とかなってる。
借金もヒドイ量だけど。 |
糸井 |
そうですね。謎ですね。 |
鈴木 |
それ自体がそうですよね。 |
糸井 |
枚数で戦ってるはずないのに、そうだよね。
企業っていうのは帳面で見るから、
鈴木慶一にこれだけ投資するっていうのは
「ギャランティいくら出るわけ?」ってことになるから、
そこでは質とかが問われないんですよ。
企業ばっかりになっちゃうから。 |
鈴木 |
そういうのおもしろいね。コマーシャル出ると
俺っていくらかがわかるじゃない。
あとレコード会社変わる時。
レコード会社変わるときいは数字言われるじゃない、
過去の。それで予算決められる。
何ていうの、いろいろやりっぱなしだからさ、
その瞬間瞬間ではそのバンドの価値、自分の価値、
っていうのが数字で見えるわけだよ。
が、しかし、そうじゃないことのほうが多いじゃない。
別に数字であなたは350万円ですって言われても
別にショックでも何でもないし、
人と比較しようっていう考えが
価値というものを生んだのかもしれないね。 |
糸井 |
ほんとのことを言ってくれるだけで価値だからね。
俺ね、慶一君に言ってる人って、
明らかに騙してる人以外は
ほんとのこと言ってると思うんですよ。 |
鈴木 |
明らかに騙そうとしてる人? 俺に対して?
あまりいないですよ。騙そうとして騙されるかもしれない、
いいや、って。それもそれだって思ってると、
騙そうとしてる人も嫌だと思いますよ。
そういうポジションでリングに上がれないじゃん。 |
糸井 |
妙な、昔の感じの辣腕マネージャーだったら
「慶一の価値は」ってフカシでやる。
「それだけですか? もっと」って言うから、
駆け引きになっちゃう。だけど慶一君のとこだと、
「はーい」って言っちゃうから、
あんなこと言ってる人にこんなこと言うの悪いな、とか。 |
鈴木 |
そういうスタッフが集まって来るんだよ。
どこも莫大な儲けを出さないような。
それは、それで優秀な。 |
糸井 |
フカさない、の価値って、まだあるんだよ。
それかける年数なんだよ。 |
鈴木 |
フカさないのを続ける。 |
糸井 |
それでやってこれたっていう。 |
鈴木 |
だから、60歳になっても、おなじように食えててさ、
それが非常に価値を生むかもしれないですね。
だから、それが私のなかで見えてるから、
晩熟型とか晩年型とか自分で言ってるかもしれない。 |
糸井 |
今ね、俺、ようするにクリエイティブでやるっていうのは、
これまで話すのタブーだったような話だったと思うんだよ。
クリエイティブっていうのはある意味経営者でないと、
クリエイティブでありつづけないられないですよ。
つまり、施主の言うとおりの家作ってるような
もんなんですよ。それやってると来年食えないんですよ。
来年いいとしても再来年とか。そう考えると、
ちゃんと職を自分でプロデュースできないと、
ものつくることできないよ。だから、
文章がちょっといいとか、そんなのもっといいやつって
いうのはどれだけでも出てくるんですよ。
そうすると、この人だからできるっていうのが
どれだけあるか、で、それは個性じゃないんだよ。
早くできるってだけでもその人なんだよ。
我慢してくれる、とか。
要するに「男意気」っていうのは商品になるんですよ。 |
鈴木 |
そうだね、そのとおり。
ところで男と女、男女共学でずっときてるから、
男女平等がどうのこうのって染みついているけど、
男女って全然違うなあって思うようになった。
男性性を出すことは恥ずかしいことじゃないな、って。 |
糸井 |
だって女にも侠気(おとこぎ)あるもん。
「任しといてよ」って瞬間あるもん。
そこで、ヴイトンがどうだっていうブランドの研究は
みんないっくらでもしてるけど、
人もある宗教性というか、ブランド性を持ってるって
いうふうに考えると、意地だとか、誠実だとか……、 |
鈴木 |
覚悟決めるとか、志が高いとか。 |
糸井 |
自己犠牲とか。ほぼ日を書くことじゃないんだけど、
ほぼ日を何で毎日やるかって言うと、
それは単純に信用がないからですよ、僕に。
すっごくいい言い方すると天才肌なんですよ俺。
で、それは、「きまぐれ」って意味なんですよ。 |
鈴木 |
私も。 |
糸井 |
しょうがないなって思われてるから、誰も、
投資できないんですよ。俺に。
「慶一とか糸井とかってどうせ飽きたらやめるんだから」
で、そうじゃないっていうところを見せないといけない。
それはどんなに我慢しても毎日やろうと思う。
どっかでやめるとしたらものすごい理由があるんですよ。
病気になってもやるから。
そうすれば「俺は投げない」ってことを
わかってくるんですよ。俺は投げないんですよ、
増えてっただけなんですよ。それを証明すること、俺、
テクとしてできないんですよ。そうすると、
今のポテンシャルって俺らの思ってるのと全然違うところに
訂正できるじゃないかって思うんですよ、あとは。 |
鈴木 |
減ったって感じしないもんね、毎日。
減るんじゃないかって思いながらやるっていう
ケチな考えは、ね。 |
糸井 |
慶一は先進的な音楽やる割におんなじような所に
友達が多いでしょう。あれは毒なんですよ、単純に言って。
「知ってる?」っていわれたときに「知ってる」っていう
集団だから。あれさえ捨てればいいんだけどね。 |
鈴木 |
バンドがあることで救われてる。そして、過保護である。
その場では知らないっていえるんだよ。
糸井さんはこの場では知らないって言える? |
糸井 |
俺どこでも言える。だから変われるんですよ。 |
鈴木 |
大事だね。何か、意地はあるけど見栄はないっていう。 |
糸井 |
だからね、見栄が人と違うんですよ、
違う見栄はってるんですよ。 |
鈴木 |
だいぶずれてる。 |
糸井 |
俺見栄っ張りだからそれしょっちゅう言ってるわけですよ。 |
鈴木 |
はははは。 |
糸井 |
俺のは、価値観の見栄だから、
相手はちっとも見栄だと思ってくれないんだよ。 |
鈴木 |
あんまり思わないよ(笑)。あんまり感じない。 |
糸井 |
いいよ、俺的には。 |
鈴木 |
ふーん。
(つづく) |